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「たとえ俺がお前に殺されたとしても、俺はお前のモノにはならない」 突然言い放たれたセリフ。何を意図して言ったのか、理解し難いその思考回路。一瞬目を見開いた後、下らないと思って哂ってしまった。 その哂いに、冷たい視線が送られる。目が合うと、その視線は心の声に聞こえてくる。 ――何を解って哂っている。何も解っていないくせに。 その声にその通りだというように、言葉を発した。 素直な疑問。 「何が言いたいんだ?」 「……別に」 「変な奴」 「お前に言われたくない」 ふい、と目線を外される。 冷たい言葉に、構うなと言いたげな態度に、逆に構いたい衝動に駆られて首に腕を絡ませる。耳元でくすくすと笑うと、擽ったいのか煩わしいのか、すぐさま首を竦めた。 眉間にシワを寄せて嫌そうにしながらも、諦めてため息を吐いているのが、予想通りで。 ただ、疑問は解消されていない。 質問に明確な答えを出さないまま、一瞬話が逸れようとしていた。だが、いくら飽きっぽいと言ってもまだ興味の対象は移ってはいないので、念を押すように重ねて聞いた。 「で?お前は俺のモノにならないって?」 今の状況はどうなんだと問うと、今もお前のモノじゃないと可愛くない反応。顔こそ見えないが、どうせつまらなそうな顔をしているんだろうと思う。そこが可愛いんだと思える時点で、自分も相当だ。 別に、それがどうだとは思わないが。 「死んだら俺は天国に行くから」 それが答えの一端だったらしい。しかし、それ以上は語らずに口を噤んでいた。 思考が回る。 確かに、自分は天国には行けないことくらい自覚している。だが、それはその仮定が成り立てば、の話。 成り立たなければ全てが変わる。 「地獄、の間違いじゃないのか?」 「どっちにしろ、」 否定はしないんだ、と言おうとしたのに、ほんの少し間を置いてまた声を発する。飲み込んだ言葉は、表に出ることもなくしまわれる。 「ここではないどこかへ行くんだ。少なくとも離れれば、お前のモノじゃないだろ?」 挑戦的なエメラルドの瞳が閉鎖されて、瞼の奥で哂う。そうやって哂われるたびに感じる、歪んだ感情。怒りではないし、憎しみでもない。そんな言葉では言い表せられない、複雑な感情。 ああ、そういうこと、と少しだけ納得した。 大部分に残るのは、死という言葉。 殺されるのは、前提なのか。今まで、ここまで生き延びて、できる限りのものを守り、生死のやり取りをしてきたことは知らなくもない。 というよりも、それを仕向けたのは自分たちだ。 生きたいのだと、死にたくないのだと、そう思っているのだと思っていたが。それとも。 ああ、そうか。 残った死という逃げ道に片足を突っ込んでいるのに、逃げるつもりが無いのはどういうことか。 結局どっちつかずで、待っているのが関の山。 何をって? 「あのちっこいのさぁ」 目が合うと、不思議そうな顔がこちらを向く。思い浮かべるのは多分同一人物。そのカオは、何故今、それが出てくるのか分からないという意味。もしくは、脈絡の無さに呆れているカオ。 どちらだっていいが、ただ、確認したいのはひとつだけ。 「どこがいいわけ?」 「お前より可愛い」 即答。可愛い可愛くないなんて、関係無いくせに。確認したかったのはひとつだけ、彼の少年が、大切なのか、そうでないのか。しかし、どうやらいいようにはぐらかされてしまったらしい。 そうしてはぐらかされた答えは、どうでも良くなって消え失せた。 本当にどうでもいいのなら、構わなければいいのに。やっぱり嫉妬かな、とか思いながら、自分より大きな体を抱き寄せる。 引き戻そうとするのは彼の少年。少年の手を取るこの男。 なら、その少年すらも排除して、男を突き飛ばせばいいだけの話。それが本当の、彼の望みなのだから。たとえ誰に恨まれようとも、知ったことではない。 それを役割と認識している自分の、嫉妬に近い感情に呆れる。 ただし、突き飛ばすなら彼一人。自分でさえも届かなくなるというのに、共になど行かせるものか。 これを。 「愛してるのになぁ」 「馬鹿じゃないか?」 冗談っぽく言うと、間髪入れずに返ってくる不必要な答え。平行線はどこまで行っても平行線で、少しでも傾けばいつか交わるというのに、そんな気配すらない。 近づく気が無いならこちらから近づけばいいけど。 唇を寄せると、一瞬だけ逃げる動作をして諦めた様に動かなくなった。正直に言って面白くは無いが、それでも素直では決してないその反応は嫌いではない。 逆立つ金の髪を抱えて、抗う体に強い口付けを押し付ける。瞳を閉じて苦しそうにもがくのを、シーツに沈めて押さえ込んだ。 「っ…んぅ…、は」 存分に楽しんでから唇を離し、睨み上げる眼に対して哂った。 「可愛い奴」 「……悪趣味」 低く呟く声は聞き取れないほど小さかったので、聞こえなかった振りをして、もう一度口付けた。 そのまま顎をなぞって首筋に辿りつくと、深く息を付いたのが分かった。押さえつけていた手を離し、脇腹、腰に這わせると、少しだけ喉が震えた。 「ん、っつ…」 時折、首筋を血が出るほどきつく噛むと、体がびくんと震えた。 痛みにも、快楽にも、与えられるものには全て堪えているということも、知っていた。 だから尚のこと楽しめるのだと、お前は知りもしないだろう。 抱き合って、傷つけて、愛してやる。 歪めたカオは、怒りか痛みか快楽のためか。それとも、悲しみってやつかな。 お前の望み通り逃がしてやるんだ。 お前のために。これを愛と言うのだろう? |