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藍色の世界

 見上げた空は雲ひとつなく、月で照らされた闇が藍色に染められていた。



 言葉が真実を表すかといわれると、多分誰もが否定するだろう。では他に何があるかといわれると、答えに窮する。
 ただ傍に居ることが当たり前の関係になっていた二人の間に、結局、言葉を交わさなくても通じ合える何かがあったのかもわからない。一つだけ言えるのは、人の心など、解るはずのないものだということ。
 それを理解してしまえば、下らない考えに囚われないで、自分の思いをひた隠すことも、曝け出すこともできる。
 例えそれが、血の繋がったものであろうと、ずっと傍にいたものであろうと。全く知らぬ誰かであろうと。ただ互いに、人は人。

 ただ、それだけなのだ。



 夜の空は綺麗だった。それは見慣れないものであるが故の感想なのかもしれないが、淡い光を放つ月や、きらきらと散っている星や、それに照らされた空の色が、落ち着いた感動をもたらしていた。
 俺は夜が好きだった。
 晴天の澄んだ空も好きだが、夜と昼とではまた違う感想が口をつく。ただ暗いだけではない。いや、むしろ明るくすらある藍の空を眺めるのが、俺は好きだったのだ。


「悟飯さん、どうしたの?」

 俺を見下ろすトランクスが不思議そうにかけてきた声で、はっとして目を合わせた。
 意識が、別の方へ飛んでいたらしい。
 誤魔化す様に微笑んで、右手を上げてトランクスの頬に手を置き、頭を撫でた。

「何でもないよ」

 その微笑に安心したのか、トランクスの顔は緩んだ表情に変わった。
 俺の顔の横に手を付いて体を支えていたトランクスは、肘を曲げて徐々に彼との距離を縮めていき、唇を合わせた。
 体の上に乗る少年一人分の重みよりも、彼の体温の暖かさを、より感じていた。人肌の心地よさに、少し唇を離して微笑んだ。
 嬉しそうに笑うトランクスに、ただ微笑み返していた。
 優しく、頬を指が滑っていく。
 その手は、眼差しは、微笑みは、どこまでも優しくて俺は無意識にそれに安心していた。
 部屋の中は明かりも落とし暗かった。だが、互いを認識できるくらいには光はあった。窓から差し込む月光と、星の光で。



 言葉は嘘を言うし、何も言わない時だってある。
 嘘は真実ではない。何も言わないのは、その人の全てを表すことにならない。現に俺も今、嘘を付いた。「何でもない」と。それから、それ以上何も言わなかった。
 そんな嘘やまやかしや、言わなかったことまで分かることがあるのだろうか。
 人によっては、瞳を見れば分かるとか、雰囲気とか、気の流れで分かるとか、色々。
 でもそれは全て真実ではないし、そう「捉えている」ということにしかならない。それが正しいかの保障など、出来ようはずがない。
 俺たちはずっと一緒にいた。会わない日など殆どないほど長く、誰も立ち入ることが出来ないほど深く。
 トランクスが何を考えているのか、単純なことならすぐに分かるようになった。怒っているとか、喜んでいるとか、困っているとか。だが、心が読めるわけではないから、どうして、かは分からない。
 果たしてこれは、通じ合える何かがあることになるのだろうか。
 誰か他の人なら、それで十分だと思うかもしれない。少し、欲張りだろうか。
 俺でさえ、俺自身の思っていることを、きちんと分かっていないのだから。他人のことなど、なおさら。
 そして、俺は俺が考えている暗い部分や汚い部分を、理解りたくはない。
 だから結局、言葉に頼って、それ以外に気づかない方が幸せなのだろうと思う。
 トランクス。君は聡い子だから、いつか俺の思っていることを考え、何らかの答えに辿り着くかもしれない。
 できることなら、そんなことは止めにして、俺の言葉だけを信じていて欲しい。
 俺の嘘を。


 ああ。

 夜が終わらなければいいのにと、何度そう思ったことか。この藍色の世界に包まれている間は、人造人間も襲っては来ない。
 何よりこうして抱き合って、どんな時よりも近くに居ることができる。言葉だけじゃない。こうして抱き合っているのは、言葉ではなくて、もっと別の何かを交わしている。
 それは、自分の全てを曝け出してしまうことのような気がした。
 尤も、気がするだけ、だが。

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