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未来における未来再構築論

 トランクスは立ち上がって、部屋を出た。まだ夜は明けない。月の明かりも、リビングにはそこまで差していなかった。一つだけある窓は大きいにもかかわらず、月の方を向いておらず、ほとんど光が入ってきていなかった。
「……どうかしたか?」
 そこに存在していた人影がソファから起きあがるのが見えた。トランクスは、彼の元まで歩み寄った。
 正面に立つと、トランクスが見下ろして、悟飯が見上げる形になる。その位置まで来ると、かろうじて互いの顔が暗く見えた。
 そうは言っても、決してはっきり見えるとは言えなかった。
「…トランクス?」
「悟飯さん、俺……」
 俯いても、顔を隠す事は出来ない。泣きそうになるのを必死に堪えて、悟飯と向き合う。彼は、真摯な瞳をこちらに向けていた。その瞳に、一瞬息を飲む。
 恐い、と直感的に思った。
 それでも、トランクスは話し出した。先程自分が考えていた事を。それが正解とは限らないし、間違っている可能性もある。それでも。
 悟飯はその話を、きちんと聞いてくれた。途中で何かを言うわけでもなく、嗜めるわけでもなく。だから、少しだけ安心できた。
 彼には、突き放されたくなかった。それが一番、恐い事だった。

「俺は、どうして俺なんだろうって、思ったんです」
「……うん」
「だって、俺の世界には貴方が居ないんですよ。世界中、どこを探したって。それなのに、俺が行った過去では、貴方が生きている。俺の傍にいてくれるのに……」
「…うん」
 何で、自分でなければいけなかったのだろう。こんなに、苦しい思いをする自分が。そうして、他の自分に対して嫉妬するのだ。
 自分の救った世界を、羨望している。
「俺は、ただ貴方に、…」
 その、続きは。
「…傍にいて欲しかっただけなんだ……」
 唯一にして、絶対に叶わない望みだった。
 タイムマシンがなければ。

 許してください。貴方にだけは、許されたい。
 あとの罪は全て負うから。
 どうか。

 堪えられない涙が、またぽろぽろと零れてきた。今度は袖で拭う事もなく、歪んだ視界に悟飯を映し出していた。ゆらゆらと揺れる視界の向こうで、悟飯が溜息を吐いたのが空気で分かった。
「……そうか」
 その声は一段と穏やかで、悟飯はトランクスの顔に手を伸ばす。その手でトランクスの涙を拭うと、さらに上に伸ばしてトランクスの頭を撫でた。
「お前は、頑張ったんだな」
 偉いよ、と言って、頭に乗せた手を引き、トランクスを引き寄せる。それにつられるように、トランクスは悟飯に抱きつき、肩に顔を埋めた。
 涙は、もう止まった。
 ぎゅっと山吹色の服を握り、背中に回す腕に力を入れる。そうする事でしか、彼の存在を確かめる事が出来ないかのように。
「悟飯さん……」
「ホント、どうして死んだんだろうな、俺は。お前が辛い目に遭うのなんて、絶対に嫌だったのに…」
 頭を撫でる掌は、いつかの日と同じくとても暖かかった。でも、あの時とは違ってそこまで大きいとは感じられなかった。
 それは果たして、自分も成長したという事なのか。
 トランクスはしばしその温もりに身を委ねていた。いつも、それを感じると離れたくなくなった。心地良い優しさに、与えられる幸福を感じながら。
 それは成長しても変わらないらしく、自分もまだまだ子供なんだと自覚させられた。
 そんなトランクスの心情を知ってか知らずか、悟飯は突然ふふっと笑い出した。
「……なんですか?」
「ん、いや何、やっぱりトランクスはトランクスなんだなって思って」
「……俺の事、ガキ扱いしてます?」
「そんな事はないよ」
 むくれるトランクスに悟飯は苦笑して、宥めるように頭を撫でてやった。そうすると、トランクスは照れたように、良いですけどね、といってそっぽを向いた。
「でも、少しだけ羨ましいな」
「………?」
 突然言われた言葉に、トランクスは思考が追いつけなかった。不思議そうに見つめてくるトランクスに、悟飯はくすっと笑って言った。
「そんなにお前に思われている、『悟飯さん』が」
 冗談のように言う悟飯の顔は、優しく微笑んでいた。それは、トランクスが一番好きだった悟飯の表情だった。
 自然に、トランクスの表情も柔らかくなる。
「…やっぱり、悟飯さんは悟飯さんだ…」
 トランクスの言葉に、真似するなよ、と言って悟飯は笑い、ふ、と目を伏せた。
「いいよ。俺でよかったら、お前の『悟飯』になってあげる」
 しばらくの間だけだけどね、と言って、悟飯はまた笑った。それだけでも、トランクスは十分に嬉しかった。



 まるでそれが当たり前であるかのように、唇を重ねる。自然に交わされたそれは、触れるだけの優しい行為。
 それが少しずつ長くなって、トランクスは悟飯の顔を固定してぺろりとその唇を舐める。驚いた悟飯が何か言おうとして開けた口に、トランクスは己の舌を滑り込ませた。
 しかし、トランクスが手で押さえていた頬に張ってあったガーゼが外れて、悟飯はそちらの痛みに顔をしかめた。
「あ、ごめんなさい…」
 トランクスは慌てて手を離して、その傷をまじまじと見る。擦り傷のようだが、少し大きめの血の跡があった。悟飯はたいしたこと無いよと言って、頬を手で覆った。
 トランクスはその手を外して、舌で傷に触れる。つ、とトランクスが舐め上げると、悟飯はそこからぴりっとした痛みが走り、思わず呻き声を上げて抗議した。
「痛い…って、トランクス!」
「ん…苦い…」
 消毒液が塗られている傷口は、血の味よりのむしろそちらの方がきつかった。傷にこれ以上触れる事を諦めて、トランクスは首筋に唇を落とした。軽く吸い付くと、悟飯の身体がぴくっと反応した。
 そのままソファに押し倒すと、何か言いたそうな眼とかち合った。
「何ですか?」
「……ここ、狭いんだけど」
 悟飯はソファを指して、嫌そうに言った。その意図に気づいたトランクスは、ソファから下りて悟飯を抱え上げた。そのトランクスの行動に、悟飯は一瞬何が起こったのか理解できなくて、反応までに時間が掛かった。
「ちょっ、それくらい俺は歩いていけるぞっ?」
「いいんですよ、俺が好きでやってるんですから」
 にこりと笑って言うトランクスは、悟飯の呆れた顔を見て了承と取ったらしく、そのままベッドまで悟飯を運んだ。
 そっとベッドの上に悟飯の身体を横たえさせると、深く口付ける。柔らかで暖かい感覚に酔いしれながら、トランクスは悟飯の胴着の帯をシュルッと音を立てて外し、上着をたくし上げて、その素肌に触れた。
 完全に脱がそうとすると、悟飯はそれを拒否した。
「上は…脱がすな…」
 そう言って、左腕が“あった”ところをぎゅっと掴む。トランクスは、分かりました、と言ってそんな悟飯の手に口づけを落とした。
 腰のあたりに触れながら、トランクスはゆっくりと下を脱がし始めた。それには抵抗することなく、悟飯はトランクスの動きを見ていた。
 時折腹に触れる唇の感触にも、小さく反応を返すだけで他には何も言わなかった。
「あ…これ、大丈夫ですか?」
 露わになった足に、巻かれている白い包帯が目について、トランクスは心配そうに悟飯に聞いた。
「ん、外れなければ大丈夫だろ」
 応える悟飯の方は何ともないというように言ってのけ、それが余計にトランクスを心配にさせた。しかし、そう言われてしまえばそれ以上何も言えないので、外れないように気を付けながら、トランクスは悟飯の足を開いた。
「っ…なっ…」
 悟飯は目を見開いて、トランクスの行動を阻もうと手を出したが、逆にその手を掴まれてしまった。トランクスは悟飯の足の間に身体を割り込み、緩く持ち上がった悟飯自身に触れた。
「……んっ…」
 鼻に掛かる声を吐いて、悟飯は襲ってくる刺激に耐えていた。
 しかし、そんな悟飯の抵抗も、トランクスの愛撫の前ではそう長くは続かなかった。段々と強くなっていく刺激に、次第に悟飯の口からも切なげな声が漏れるようになった。
「ん…ぁ、はっ…」
 トランクスは掴んでいた悟飯の腕を放して彼の腰を持ち上げ、さらに秘部へと指を進めた。
「い…っつ……」
 無理矢理押されてくる感覚に、悟飯は悲鳴にも似た引きつった声を上げた。トランクスは一旦動きを停止して起きあがると、悟飯に軽く口付ける。
「すみません…大丈夫ですか?」
「ん……」
 荒くなっている息づかいの中でかろうじて応えた悟飯は、腕をトランクスの背中に回した。トランクスは悟飯の身体に密着させ、再度深く口づけを交わす。二人の意識を、まるであわせてしまうかのように。
 トランクスは悟飯の秘部から指を抜き、代わりに熱くなった自身を宛てがった。
「いい?悟飯さん」
 トランクスの確認に、悟飯は少し恥ずかしそうに頷いただけだった。トランクスはそれを見て、満足そうな表情を浮かべて腰を進めた。
 傷を触れられているときにも似た、電気が走るような痛みが起こる。圧迫感も加わって、悟飯は苦しそうに呻いた。
 だが、呻き声はそのうち甘い吐息に変わった。
 その部屋にあるのはベッドの軋む音と、二人分の息づかい。二人だけの空間に溶け込んでいき。

 そうして二人は、同時に達した。

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