「自分の最も大切な人が命の危険に晒されている。しかし、助けようとすると自分が命を落とすことになる。このような場合、あなたならばどうするか、答えよ。」
唐突に告げられたそれは、今居る場所には似つかわしいようであまりにかけ離れた問いだった。
告げた方は暗黒騎士、告げられた方は竜騎士。この場は戦場で、見張り以外ほとんどの者が疲れを癒すため眠りについている夜半である。それを告げられた竜騎士、カインは、少々戸惑ったように問い直した。
「それは、心理テストか何かか」
「まぁ、そんなところかな」
はっきりとしない答えだった。セシル、と催促するように名を呼んでも、彼は笑うだけで何も言わなかった。どうあっても、答えを返さなければならないらしかった。
カインはその問いをもう一度頭の中で繰り返した。簡単に言ってしまえば、自分の命と、大切な人の命を天秤にかけている問題だ。なんとも悪趣味な問題で、特に女性が好みそうなものだと思った。命に代えても自分のことを守ってくれる、王子様を望む女性が聞きそうな問題。もしかすると、セシルはローザ辺りから聞いたのかもしれないな、と一瞬考え、今はそれを考える時ではないと頭を切り替えた。
自分ならばどうするか。しかもこの場合、「大切な人」というのは目の前にいるセシルと考えなければならない。さて、自分ならばどうするか。
一方セシルはカインを見上げ、彼の答えを待っていた。どう返してくるか、予想はついていなかった。ただ、彼の答えに興味があったから聞いてみた。会話の流れからして、双方「大切な人」というのはセシルであるという暗黙の了解がある。だから余計に興味を持った。それだけのものだった。しかし。
「……俺だったら」
「うん」
「助けない」
カインの答えに、酷く傷ついた自分がいた。
そうなんだ、と抑揚のない声で言う。それ以上どのような反応が返せたというのか。
カインにとって、自分は少なくとも親友であると思っていた。だから、きっと彼の答えに予想はついていなくても、期待はしていたのだ。「助ける」という答えを。
そんな自分が惨めに思えて、セシルは俯いて自嘲気味に笑った。
カインはそんなセシルを見て、困ったように頭をかき、目を泳がせた。そして、意を決したように口を開き、セシルの顔を上げさせた。
「お前は、さ」
「?」
「俺が命を捨ててまで助けて欲しいとは、思わないだろ」
「……え」
「だから、助けない。って、答えたんだが」
困った、というよりも照れたように、カインは眉間に皺を寄せて言い切った。セシルはカインの言葉がいまいち理解できていないようで、きょとんとしてカインを見上げていた。助けて欲しいと、思わない? 誰が? セシルの中でカインの言葉が反芻され、少しずつ言葉の意味が繋がり始めていた。
しかし、見られることに恥ずかしさの限界が来たカインは、顔を赤くして考え中のセシルに向かって怒鳴った。
「だからっ、俺がそんな死に方したらお前はその後絶対引きずるだろうが! そんな風に引きずって欲しくないから、俺はそう答えたんだ! そうじゃなかったらどんなことしたって助けるに決まってるだろ!」
「わ、分かった、分かったからカイン、そんな大声……」
セシルも流石に理解したようで、真っ赤になってカインの声を抑えた。カインの方も赤くなり、二人共気まずそうに目線を泳がせた。元はといえばそんな問題を出してきたお前が悪い、と言わんばかりの恨めしげな眼と声で、カインはセシルを責めた。
「下らないこと聞きやがって」
「ごめん」
「……」
「……えーっと、ありがとう」
カインとは逆にひどく嬉しそうな顔をしたセシルが、彼を見上げた。そのセシルの表情にカインももうどうでもよくなり、溜め息をついて項垂れた。
しかし、二人の顔はまだ赤みを帯びていた。
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