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生きていたのか

「じゃあ蒼紫様、あたし一回帰るね!」
「ああ」

 操が階段を降りる音が遠くに聞こえるようになった頃、その男は現れた。正確には、ここ数日常に付きまとっていた気配ではあったが、姿を現すのはこれが初めてだった。
 現れて早々、男は溜め息をつき、肩を落とした。

「何であの小娘はいつもお前の周りをうろちょろしてるんだ」
「……何の用だ」
「お前こそ、こんな辛気臭いところで何をやっている」
「見て分からんか」
「座禅」

 煙草とマッチを取り出し、言った。吸うなと言おうと思ったが、聞きはしまいと考え直し、黙った。初めの質問に、奴はまだ答えていない。
 言動から察するに、用があるとすれば自分一人にだろうとは分かった。この男が自分に一体何の用があるのか、予想はつかなかったが。奴は黙ったまま一服し終えると、隣にどかりと座り込んだ。血の気配も薬の匂いもしない。一月で傷はほぼ癒えているらしい。
 あの両足の傷と最後の爆発でよくもまあ、と思い出し、ふと気づいた。

「……そういえば」
「あ?」
「生きていたのか」
「……ずいぶん、今更だな」
「しぶとい男だと今思ってな」
「やれやれ、可愛くない」

 なくて結構。
 二本目を吸い出した男は、初めにした質問を忘れているらしかった。さっさと用を終わらせて帰らせたかったので、再度同じ質問をしてやった。

「それで、何の用だ」
「別に用というほどのことでもない。お前には俺が生きてるところを見せてやろうと思ってな」
「俺に見せてどうなる」
「小娘などに見せたら喧しくてかなわんだろうが」

 だから操の前では姿を現さなかったのか。しかも、自分が面倒だからとそれを説明させる気か。
 馬鹿馬鹿しいと思い、男をそのままにして立ち上がり、寺を出るため歩き出した。奴は相変わらず煙を吹き、動こうとはしない。本当に用はそれだけだったようだ。
 寺を出て石段を降りても、先程と同じ匂いがした。煙草の匂いが着物に染み付いているようだった。仕方がないので、これが取れるまでそこらを散歩することにした。
 あの寺にもしばらくあの匂いがこもることだろう。匂いが消える頃まで、あの寺に行くのは止めようと、思った。

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