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言うまでもなく

 はらはらと舞い落ちる京都の紅葉よりも尚鮮明な緋。そして、飛び散った緋に濡れることなく静かに佇む、黒装束の男。

「白昼堂々警官の前でコロシか」

 突然かけられた声でも驚くことはない。声の主が誰であるか分かっているにも関わらず、振り返ることもせず、その男は一言。

「死んではいない」

 確認してみると、成程確かに一人も死んではいなかった。ただし、足と言わず腕と言わず、「その稼業」としては再起不能なまでに叩きのめしている状況を見れば、殺しているのと大差はない。だが、確かにその男の目的は達成されている。
 抜刀斎にあてられたか。

「ほう、なら傷害罪になるわけか」

 馬鹿馬鹿しいと言ってやる代わりに軽口を叩くと、奴はこちらを一瞥した。そうして、「別に」とまた一言。本気で逮捕する気のない軽口に付き合う気はないらしい。こちらとしても、傷害罪の逮捕だけでコレと死闘を繰り広げるのは御免被る。
 一笑して煙草を取り出し、マッチで火をつける。
 ふう、と一息つくと、背後から殺気を感じた。殺気すら消せない雑魚だ。相手にするのも馬鹿らしいと思い、そのまま煙草を吸っていると、正面から苦無が飛んできた。顔の横を素通りし、それは背後の殺気の馬鹿に命中したらしい。小物臭い悲鳴を上げてどさりと地に伏した……ようだ。後ろを見るのも面倒だ。
 苦無を投げた男は己の刀を仕舞っているところで、感情を窺わせない。どうでもいいが苦無などどこに仕込んでいるのか。

「礼は言っとくべきか?」
「……俺の相手だ、とお前が判断したんだろう」
「帰るのか」

 一見長刀の武器を左手に持ち、背を向ける相手を呼び止める。が、止まるはずは無い。答えは是だということは分かったが、少々癪だ。
 そう思うと、自然と足が動いた。奴と同じ向きに。
 それに対して、奴は特に何も言うことはないらしい。後姿ではどのような顔をしているか分からないが、不穏な空気ではない。
 風が吹き、奴の腰の飾り帯がひらひらと揺れる。風に遊ばれているそれをひょいと掴むと、奴は振り返った。その表情は不愉快、というより怪訝、といったもの。

「何してる」
「邪魔じゃないのか、これ」
「お前の髪よりマシだ」
「お前の髪よりマシだろ。ところでこれどうやって結んでるんだ?」
「……引っ張るな」

 好奇心に駆られて引っ張ってみると、流石に抵抗してきた。振り払おうとした手を逆に掴んで引き寄せてみると、今度こそ不愉快という表情が眼前に広がった。別段それが見たいわけでもないので、頭を抱えて肩に押さえつけた。
 と、鳩尾に鉄拳が飛んでくる。流石に不意をつかれた攻撃だったため、瞬間眩暈と吐き気がするほど衝撃がきた。頭と帯を離して蹲ると、上から溜め息が降ってきた。

「……痛い」
「手加減はした。あとは自己責任だ」
「貴様後で絶対脱がす」

 その時に帯の構造も解明してやる、と若干ずれた思考が働いた。

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